親知らずについて
親知らずは、別名第三大臼歯といいます。
第三と呼ぶからには 第一、第二があります。 第一というのは いわゆる「6歳臼歯」、第二とは「12歳臼歯」のことです。これら2つは文字通り、6歳の頃、12歳の頃、萌(は)えてきます。
そして成人になるにつれて、更に第二大臼歯の奥に親知らず(第三大臼歯)が成長してきます。
また、人によっては、この親知らずが、卵の状態で留まった状態や、ときにはその種さえ存在しないケースもみられます。
親知らずは、まず歯冠とよばれる頭の部分が発生し、徐々に根の部分が伸びてきます。
そして、その親知らずの向き、大きさ、位置、歯肉からの顔の出し方などにより、様々なトラブルを引き起こす場合があります。
虫歯に起因する痛み
親知らずは、食べたあとの汚れが溜まりやすく、また磨きづらい場所です。
きちんと磨いているつもりでも、ムシ歯になりがちです。
ムシ歯で浸食された部分が大きくなり、やがて歯の内部に存在する神経にまで細菌感染や刺激が及ぶと、一般的なムシ歯の場合と同様、歯髄炎を引きおこして、激しく痛みます。
残念ながら、このような症状に至ってしまった場合、鎮痛剤を服用した程度では、痛みは消えません。歯髄炎で痛みだした場合は、一般の歯のムシ歯治療と同様に、麻酔をした上で、歯の内部の神経処置を済ませたのち、普通の歯のように利用する方法がひとつ。もうひとつは、後の利用価値が低いと判断した場合には、抜いてしまうケースがあります。
尚、神経処置と温存の対象歯は、治療可能な空間があるとき、歯の向きが正常であるとき、などになります。
「痛いときは抜かないほうが良い?」という話を聞くことがありますが、それは細菌感染による腫れが原因の場合です。
「痛いときは抜かないほうが良い」場合は、炎症を抑えるために抗生物質を服用したり、切開して膿を出したりするケースになど該当します。
炎症が激しい場合は、麻酔が効きにくい、傷が治りにくいことがあるため、消炎後の抜歯が好ましいと言えます。
(写真0005)この上顎の親知らずは虫歯が大きくなっています。
下顎の親知らずは、一つ手前の第二大臼歯の奥側にムシ歯を発生させています。
根に発生したムシ歯の修復は非常に困難なため、この場合、大切な第二大臼歯を損壊させています。
これら上下親知らずは、この先残しておいても、お互いに噛む機能が発揮できません。
双方、抜歯したほうが良い症例と言えましょう。
(写真0019)この左下の親知らずが原因で、一つ手前の歯(第二大臼歯)の根にムシ歯が発生しています。
この場合、第二大臼 歯には歯髄炎の症状が、当の親知らずには細菌感染による痛みの症状が同時に発生する可能性もあります。
皮肉なもので、原因をつくっている親知らずにはムシ歯がみられず、健全だったはずの第二大臼歯の根が損傷しています。
理由は親知らずの頭の部分は丈夫なエナメル質、反面、第二大臼歯の根は象牙質(セメント質)で、その硬さはエナメル質の7割程度です。
結果、硬さで劣る象牙質が害を被っています。
この症例では、第二大臼歯の奥側の根を残すことはできません。第二大臼歯の手前半分を残すことを試みて奥半分を抜去する、
或いは、第二大臼歯すべてを抜歯する必要があります。
このように健全な歯の根にムシ歯が発生しても、歯肉内部は目視出来ないため、自分自身で発見することは困難です。
多くの場合、定期検診、歯の一部に発生した不自然に深い歯周pocket、レントゲン撮影時に発覚します。
親知らず周囲の歯肉の痛み・歯肉の腫れ
親知らずは、現代人の顎がスリムになるに伴い、その萌(は)える場所が充分確保されなくなりました。
歯肉からその一部が顔を出す程度で留まってしまい、完全に顔を出さないケースが過半数です。
その場合、歯肉の内部に隠れている部分が、いわゆる歯周ポケットような状態となり、細菌感染しやすくなります。
更に、磨きづらさという悪条件が加わり、親知らず周囲の歯肉は、炎症を起こしがちです。
これは加齢に伴う歯槽膿漏に於いて、深くなった歯周ポケットの歯ぐきが腫れるのと似た理屈です。
僅かであっても、親知らずの一部が顔を出し、口の中の細菌や汚れに触れると、歯周ポケットと同様に細菌感染を起こします。
身近に見えている歯の表面の部分は、指でこすってみて、キュっキュという、白くつやつやしたエナメル質でできています。
他方、根の部分(通常は触れられませんが)は若干ザラザラした、やや黄色がかったセメント質で構成されています。
歯肉は、このザラザラしたセメント質(根の部分)と結合しますが、つるつるしたエナメル質部分とは結合しません。
すなわち、歯肉の中にツルツルしたエナメル質が存在することで、歯肉と結合しない溝が生まれ、悪化した深い歯周ポケットと同様な環境になってしまいます。
細菌感染が、ときには扁桃周囲炎に波及してしまうことがありますので注意が必要です。
しかし全てのケースで、親知らずが腫れるわけではありません。 侵入してきた細菌は、通常、自らの免疫力で退治しています。
免疫力が低下する疲労時、風邪のときに、親知らず周辺が痛みがで出るのは、そのためです。
(写真0003-1)右下の親知らずは、歯肉外部に頭を出している為、お口の中の細菌や汚れが常時入り込んでいます。
(写真0003-2)左下の親知らずは、歯ぐきや骨の中に存在している為、幸い顕著な感染に至っていません。
歯並びへの悪影響
一般的に歯は、お口の先端方向に、頭部分が傾いたり、移動したりする性質があります。
これを専門用語で「ゴードンの法則」といいます。
親知らずの場合は、きちんと萌えるスペースが無い為、その位置が不安定で、列から逸れて萌えてきたり、そのすぐ前の第二大臼歯を前に押したりする場合があります。
このような理由で、お口の先端方向に持続的な力が発生すると、特に根が細い前歯、犬歯、小臼歯などの歯並びが乱れやすくなります。
歯並びが乱れる前に、または これ以上乱れないようにする為に、原因の一部である親知らずを抜くことも一案です。
(写真0001)この親知らずは、頭を前方に、水平方向に倒れています。
この親知らずにより、他の歯は前の方向に押されて、歯並びに悪影響が出ます。
他の歯や、組織への悪影響
●下に噛み合う相手の歯(健全に向いている親知らずを含む)が存在しない親知らずでは、重力に従って、下方へ伸びてくる(落ちてくる)傾向があります。
その結果、上の親知らずが、下の親知らず周辺の歯肉、親知らずが存在しない場合は歯肉そのものを噛み込むことで、傷つけがちです。
●食べカスが停滞しやすい為、特に上の親知らずは、頬の側に大きなムシ歯をつくることが多くみられます。
ムシ歯で溶けてしまった歯の表面が、欠けたり、尖ったりして、頬の肉を傷つけてしまう場合があります。
これは、比較的柔らかい象牙質がムシ歯によって先に溶かされ、硬いエナメル質が鋭利な形態で残るためです。
●顔を出している程度にかかわらず、親知らずが周囲の組織に悪い影響を与えることがあります。
傾いたり、真横に向いたりした親知らずにより、第二大臼歯が影響を受けます。
常に押す力が加わることにより、第二大臼歯の根が溶けるように浸食されてしまうこともあります。
●一部、先述内容と重複しますが、親知らずが第二大臼歯に食い込むことで、第二大臼歯を崩壊させて、大切な第二大臼歯を抜歯に至らしめる残念な症例があります。
(写真0019)親知らずがムシ歯にならずに、手前の歯の根が浸食されています。
潜っている親知らずの歯の頭の部分はエナメル質で、これはダイヤモンドに匹敵する硬さです。第二大臼歯の根の部分は象牙質(正確にはセメント質)になっていて、硬さはエナメル質の7割程度です。
その結果、生涯使う大切な第二大臼歯の後ろ側の根が虫歯になることで甚大な害を被り、いずれ抜いてしまう親知らずが無傷という皮肉な症例になっています。
(写真0017)一つ手前の第二大臼歯は、既に神経を取っている為、ムシ歯のような激しい痛みを感じません。
そのため、親知らずが原因で発生したムシ歯により、手前の第二大臼歯が崩壊、動揺するまで気づかずに症状が進行してしまいがちです。
(写真0021)幸いこの段階では、第二大臼歯の後ろ側に顕著なムシ歯は発生していません。
しかし水平に倒れこんだ親知らずの表面・手前面 (一般の歯でいうところの噛む面)の凹凸により、
食べカスが 停滞しやすい環境が発生しています。早期に抜歯を検討しないと、第二大臼歯の後ろの根が浸食されることが予想されます。
補足:抜かずに温存したほうが良い親知らずもあります
すべての「親知らず」が害をもたらすわけではありません。
一般の歯と同じ向きに萌(は)えているならば、役立つこともあります。
●第二大臼歯を既に失っている場合、ブリッジの支えの歯として役立てることができます
●義歯を使用する場合、支えや安定に寄与することがあります
●第二大臼歯の状態が悪い場合(根が割れている・部分的に悪化した歯周病など)、親知らずを将来の支えとして役立てることがあります
●第二大臼歯の状態が悪い場合(根が割れている・部分的に悪化した歯周病など)で、かつ健全な向きで親知らずが潜っている状態でも、
第二大臼歯を抜歯したあと、 第二大臼歯が存在した場所への自然移動(小矯正を含む)を期待する場合があります
●失われた臼歯の箇所へ、親知らずを移植する術式もあります
痛みの少ない抜歯術を!
親知らずを抜くと、「ひどく腫れてしまうのでは?」、と心配する声を聞きます。
実際、周囲に親知らずを抜いた患者さんの腫れてしまった顔や、痛がっている姿を見た経験のある方も多いと思います。
また抜歯の為に大学病院・口腔外科などへ紹介されるケースも多いことからわかるように、親知らずの抜歯は、経験と技術を必要とします。
当医院では、周囲の組織を極力保護し、後の炎症を抑える方法で対処し、術後の痛みを軽減させるように配慮します。
上の親知らずは、下に比べて、比較的柔らかい骨に囲まれています。また 極端に曲がった向きにはえているケースは少なくなっています。
当医院では僅かな所要時間で対処可能な症例が多く、術後の炎症、痛みの発生は皆無に近い結果を出していますので、術式について大きな問題はありません。
問題視されるのは下の親知らず抜歯になります。
(写真0025)下の親知らずは、上と比較して硬い骨に囲まれています。
真横を向いている症例、根が八の字に開いている症例、 根が骨と癒着している症例などがあり、いっそう慎重に対応します。
(写真0013)